甲状腺疾患について
甲状腺は体の中で最も触りやすい首の中央部に位置し、愛情の印であるハート型をしています。甘いリンゴの形とも言え、ハート型であることは大事な臓器であることを示していると考えられます。 甲状腺は、カラダの臓器の中でも最も小さな部類に属するものですが、ヒトが成長・成熟していく過程において欠くことの出来ない甲状腺ホルモンの分泌を行っています。
甲状腺ホルモンには食べ物をエネルギーに変える働きがあり、このエネルギーで我々は体を動かし、頭を使うことが出来ます。甲状腺ホルモンは食物(主に海藻)に含まれているヨード(ヨウ素)を材料として産生され、身体の成長・知能・代謝・他の内分泌ホルモン、特に女性ホルモンの働きに重要な役割を担っています。ヒトはこのホルモン無しでは生きていくことができません。 このホルモンバランスが崩れると体の色々な症状や疾患が生じ、乳頭ガンなどの甲状腺腫瘍などの重病も発生します。
甲状腺疾患の病気について
甲状腺ホルモンは前述のように主に体内の新陳代謝を司るホルモンですが、何だかの原因で甲状腺ホルモンの分泌が増減すると新陳代謝のバランスが崩れ、動悸や息切れ・むくみ・原因がわからない体調不良や疲れが溜まるなど様々な諸症状が現れます。甲状腺の病気には、甲状腺の「働き」の変化と「形」の変化という特徴があり、病気によってその両方の変化が現れたり、あるいはどちらか一方だけが現れたりします。主に下記の3つに分けられます。
甲状腺機能亢進症-甲状腺ホルモンが多い状態-
血液中に甲状腺ホルモンが増加したために起こる病気です。そのほとんどはバセドウ病です。若い人に多いのですが40代に入ると慢性甲状腺炎(橋本病)と混在したり、移行したりします。主に下記のような症状があげられます。
- 主な症状
- 疲れやすさやだるさがある
- かゆみがある
- 汗が異常に多い
- 口が渇く
- 暑がりである
- なかなか眠れない
- 脈拍数が高く、動悸・息切れがする
- 微熱が続く
- 手足がふるえる
- 髪の毛が異常に抜ける
- のどが腫れる
- 排便の回数が増える
- 食欲が旺盛である
- 眼球が出てくる
- イライラする
バセドウ病
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の代表的な疾患で、甲状腺が甲状腺ホルモンを血液中に過剰に分泌する為に、多くは甲状腺の腫大、頻脈、眼球突出などの症状が現れる病気です。その他、甲状腺が腫れる、脈が速くなる、動悸・息切れ、手が震える、汗をかきやすくなる、体重減少、イライラする、疲れやすい、ときどき手足の力が入らなくなる(周期性四肢麻痺)、暑がりになるなどの症状も現れる甲状腺疾患です。
甲状腺中毒症
甲状腺ホルモンを含んだ薬品(外国製のやせ薬やその他の医薬品など)を摂取した結果、血中甲状腺ホルモンが高くなり、甲状腺ホルモンの作用が過剰に出現する症状です。脈が速くなる、動悸・息切れ、手が震える、体重減少、疲れやすい、手のふるえ、暑がりになるなどの甲状腺機能亢進症と同様の症状が現れます。
甲状腺炎
甲状腺炎は、ウイルスや自己免疫の異常が原因で甲状腺の組織が炎症を起こし破壊され、甲状腺に貯まっていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出て血中の甲状腺ホルモン量が増加する症状です。この症状は有痛と無痛の2種類の症状に分けられ、甲状腺が硬く腫れ、痛みを感じる場合は亜急性甲状腺炎、特に痛みがなく、動悸、暑がり、体重減少、むくみ、体重増加、寒がりなどが現れる場合は無痛性甲状腺炎となります。これらの症状は、血中甲状腺ホルモンの量だけではバセドウ病との区別がつかないことがありますので、血液中の炎症反応やヨード摂取率の検査、甲状腺超音波検査などが必要となり、場合によっては甲状腺エコー下で穿刺吸引細胞診(腫瘍に採血用の針と同じ太さの細い針を刺して直接細胞をとり、採取した細胞を顕微鏡で調べる方法)の検査をすることもあります。
甲状腺機能低下症-甲状腺ホルモンが少ない状態-
基本的には、甲状腺の働きが弱くなって起こる病気です。むくみ・眠気・倦怠感・脱毛の他、うつ症状や頭痛などの不定愁訴が見られます。更年期に差し掛かった人や老人では甲状腺の病気とは気づかない場合がよくあります。この多くは、慢性甲状腺炎(橋本病)から起こります。放っておくと高脂血症、高尿酸血症などの三大代謝病も併発し、全身病となります。 また、老化にも影響を与えますので、若帰りには甲状腺ホルモンは大切なものなのです。
- 主な症状
- 疲れやすさやだるさがある
- 皮膚が乾燥する
- 汗が少ない
- 声がかれる
- 寒がりである
- 眠たい
- 脈拍数が少ない
- 物忘れしやすい
- 顔や手足など全身がむくむ
- 髪の毛が抜ける
- のどが腫れる
- 筋力が低下する
- 体重が増える
- 便秘ぎみ
- 気力がなく動作が鈍い
慢性甲状腺炎(橋本病)
慢性甲状腺炎は、1912年に世界で初めて日本の橋本策先生が初めて報告された病気で、先生の名前にちなんで橋本病とも呼ばれています。慢性甲状腺炎(橋本病)の原因は未だにはっきりとしていませんが、主にウイルス性の炎症ではなく、自己免疫の異常により甲状腺で炎症が生じる病気で、体内のある特定のリンパ球が自己の甲状腺組織を破壊して、慢性炎症が起こる病気といわれています。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
新生児の中には、先天性の甲状腺機能低下症が見られる場合があり、これを先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と呼んでいます。日本では数千人に1人の割合で症状が見られることがありますが、早期にこの甲状腺機能低下症を発見し、薬物療法を行うことで健康に成長できることがわかっています。
甲状腺の結節性疾患-甲状腺に腫れやしこりが見られる状態-
結節性疾患とは甲状腺の中に「こぶ」(結節)ができる病気で、腺腫様甲状腺腫(単なる増殖性病変)や腫瘍(良性腫瘍と悪性のガン)などがあります。悪性のガン以外ではあまり手術は行われません。ガンの手術をする時は、当クリニックでは安全・確実・容易な無血(少量出血)甲状腺手術を心掛けています。 また、ガンの術前にはエコーと穿刺吸引細胞診から「甲状腺・頸部リンパ節地図」を作成し、これに基づいて手術を行っています。
- 主な症状
- 首にしこりがある
- 食事が飲み込みにくい
- のどに痛みがある
- 声がかすれる